本誌「C.C.C.」内で、様々な作家さんにキャラクター論について語っていただくコーナーが「キャラクター作りの神髄」!
HPでは、その取材模様の全文を公表します!
Vol.16(最終回):いくえみ綾先生
- ケンケン(以下、K) 前号で完結を迎えた『太陽が見ている(かもしれないから)』ですが、どのようにして生まれたのでしょうか。
- いくえみ綾(以下、綾):前の連載の『プリンシパル』が明るくて可愛いお話だったので、飽きがこないようガラッと変えて少しひねくれたというか、暗いようなお話をやってみようかと思いました。
予告イラストの時点で、女2人の葛藤の話にしようというのが決まっていました。タイトルも予告の時点で決めないとなので、タイトルにも引っ張られる形で内容が出来ていきました。 - 予告と同時に内容が決まっていくというのがすごいですね。
- いつも力技なんですよ(笑)。
- ではメインの岬、楡、日帆の3人はどのように出来ていったのでしょうか?
- まず岬が出来て、ちょっと孤独っぽい子にしようかなと思って、楡はほぼネームと同時に作っていきましたね。
学校生活でお互い惹かれあうならこういう感じかなと言った具合にです。 - 主人公の岬は周りと一歩引いた付き合い方をしていて、そこに共感できる読者もいると思いますが、そこは意識をして?
- そこまで意識はしていないですが、どんな人間を描いたとしても、どこかしらに引っかかる(共感してくれる)人はいるんじゃないかと思います。
- いくえみ先生のように、きちんと人間を描けていればこそですね。キャラをリアルに描写するには人間観察が大事なのでしょうか?
- そうですね。そんなに意識して観察はしていませんが、周りの人間からヒントを得たりすることは多いです。こういうことがあった時に、こういう行動に出るんだなとか、自分との違いは参考になりますね。
私はこう思って、こう反応するけれど、他の人はそれぞれに違うわけですし。 - 飯島兄のキャラは後から活躍していきましたが、これは初めから意図していたのですか?
- 飯島兄もネームをやっていて動いていったんですよね。3人だけだとあまり動かなかったので、外から何か言ってくれるキャラを出すと動くんです。これは技術的なことですね。
- そういったいくえみ先生の技術論を知りたいです。キャラを描く時にどんなことを意識されるのでしょうか。
- その人その人によって、言うことや反応が異なるということを意識しますね。そこが同じだと、なんでこの人とこの人は同じ反応なんだろうって思っちゃうじゃないですか。キャラの差を出すことですね。
- その差を描くことこそ「キャラクターがある」ということですよね。どうすればそれぞれ異なるキャラを掴んで描けるのでしょう?
- 普通に1人の人間だと思えば良いと思います。友だちとか家族を見ても、みんなそれぞれ違いがありますよね。
- では男キャラの場合、どんなことを意識されていますか?
- これも同じですね。なるべく、割と普通の人っぽく描いているつもりです(笑)。決して王子様キャラじゃないですね。むしろ王子様は描けないですし。
- 「普通の人」を描いているけれど、ちゃんとキャラがある。一見、真逆なことにも思えますが、投稿者にも分かりやすく言うと…?
- 態度や仕草、どんな風にしゃべるか、反応の仕方をいわゆる漫画的、記号的に考えるのではなく、その人の個性として出していくことですね。
- いくえみ先生は初めからそのようにキャラをリアルに描くことが出来たのですか?
- 新人の頃はあんまり考えていませんでした。昔はやっぱり漫画的なキャラを描いていた気もしますが、自然とこうなっていきました。
- キャラを描く上で何か転機はあったのですか?
- ミーハーな話なんですが、芸能人を好きになった時、その人の顔を意識して似せたキャラを描いたんですが、絵を描くのが今まで以上に楽しくなりましたね!リアルな人間を描くのはおすすめです。
- では次にキャラをどう動かすかですが、いくえみ先生はプロットは作らずネームに入るんですよね。
- はい。デビュー後の作品を作る時、担当さんにプロットを見せなきゃなと思って作ったのですが、3行で終わってしまって…(笑)。
あまり意味がなかったので、ネームから作ることにしています。 - プロットを作らずにネームから入るとなると、いきなり描き始めるんですよね。ネタ帳にアイデアメモ等もしない?
- そうですね。ネームで9割決まります。でも、ネームの取り掛かりまでが長いんです。ゲームをしたり、遊んだり、飲んだりしながら、ネームのことはずっと考えてはいます。ぼんやりと考えながら助走をつけるんです。
- ネームはどのくらいで出来るんですか?
- 読みきりだと、助走の後、真剣にネームに向き合った時は一晩で出来ます。ネームを描いていて「これはダメだ!」と捨てた時に「じゃあコレだ!」で出来るパターンが多いですね。連載のネームは真剣にやって3日くらいです。
- ネームは1P目から描いていくんですか?それとも描きたいシーンから?
- 普通に1P目から始めていきます。出だしの10Pくらいは何度も描き直すんです。ここが決まらないと進みません。50Pの読みきりの場合は20Pくらいまで描けるとその後が早いですね。
50Pなら30Pくらいで見せ場が来ると計算しています。 - 何度も描き直す最初の10Pはどんなことを意識しますか。
- 読みきりの場合、初めの10Pくらいで、キャラがどんな人でどんな環境かをエピソードで伝えていきます。キャラを紹介するだけでなく、話を進めながらやるんですよね。ただの紹介にならないようにするのが難しい。
- キャラ紹介を上手くやるには?
- 起きた出来事にキャラがどんな風に反応するかですね。キャラのリアクションで興味を持ってもらうこと。あとは関係性を見せることも大事です。
- そういった出だしのエピソードが出来ると後半は早く描けてしまうのですか?
- 経験から何となくゴールが見えてくるんですよね。着地はここにいけば良いかなと。
- 着地のイメージが見えたとして、途中はどのように考えるのですか。
- 男女がくっつく話だとすると、後半のこういうエピソードで両想いになるとしたら、途中でどんなエピソードを積み上げていけば気持ちが変化していくか、どうすればラストに繋がるかを考えます。
どんなに良いラストだとしても途中の両想いになる過程をすっとばすと台無しなので。ラストの収束にあたってどんなエピソードが必要か考えるわけです。
あと私は、最後の2~3Pをだらだら終わらせるのが嫌なんです。最後まで無駄にしたくないので詰め込みます。 - 詰め込むと言いますと?
- 過去のセリフの伏線を回収したりですね。回収できなくてもキーワードやセリフなどの伏線をよく入れます。
- なるほど。最後まで読者に楽しませようという姿勢と、感覚的に見えて技術論に基づいたネーム作り、大変参考になりました。