本誌「C.C.C.」内で、様々な作家さんにキャラクター論について語っていただくコーナーが「キャラクター作りの神髄」!
HPでは、その取材模様の全文を公表します!
Vol.13:生藤由美先生
- ケンケン(以下、K) まず最初に『ねこノート』がどのように出来たのか、教えていただければと思います。
- 生藤由美先生(以下、生) 人間よりも猫を主人公にして描いた方が自分の場合は自由に表現できるからですね。 ずっと以前に担当から言われて、なるほどと思ったのですが。
- なるほど。人間よりも猫の方が縛りがないですか。
- そうですね。人間で描くと、普通の子はこんなことはしないよなってなるので、変わってる人の方が描きやすく、猫だと自然なんですよね。
- 前作の『ゾッチャ』も猫の漫画でしたよね。
- たまたま当時の飼い猫が面白かったんです。すごく感情を持っているように見えて、その子を怒ると「なによ!」って逆に仕返ししてくるように見えて(笑)。それをそのまま漫画にしたら連載になったのが『ゾッチャ』です。
- 『ねこノート』では毎号、違うキャラクターを生み出していますが、大変ですよね。
- 実は連載を始める前から1年分のストックが出来ていたので、基本的にあまり苦労していません(笑)。毎回のお話は、日常生活の中で見聞きしたり、引っかかったものがヒントになることはありますが…実際の猫を見て触発されているわけではないと思います。
- それは意外ですね。
- 私の漫画ってよく猫の擬人化って言われるのですが、私は猫そのものを描いているつもりなんです。猫と人間をそもそも区別していないですね。
- なるほど。では沢山の猫のキャラはどのように生まれるのでしょうか?
- 私はキャラ作りについては、ほとんど意識にのぼらないです。多分、意識の中でいつの間にか作られていて、勝手に降りてくるのを私はメモするだけですね。キャラってそんなに作り込みます?
- キャラを描く上で大事なのは、キャラがあること、キャラが立っていること、実際に存在するかのように見えるということだと思います。それが出来ていない投稿者に向けて「キャラ」を作ってくださいねというのが本企画の趣旨です。生藤さんの実感のあるキャラがどうやって作れるようになったのか、教えていただければと。
- やはりキャラが降りてくるようになるには、蓄積が必要だと思いますね。インプットとしていくための視点を持つことなんですけど。
- なるほど、普段からの習慣としてインプットを。
- はい。周りをよく観察します。周りに興味がないとダメ。変わった人、面白い人がいるなぁと。その蓄積が大事なのであって、何か拾ってネタにしてやろうって思うと上手く描けないので、本当に自然な蓄積ですね。
- リアリティのあるキャラを生み出すためには、人間に興味を持ちすぐネタにするわけではなく、人間観察を習慣にするということですね。
- そうですね。そうするとフッとキャラが降りてきます。何の前触れもなく、お風呂に入っている時とか、食器洗ってる時とか。
- そういう感覚なんですね。
- キャラが出てきた時に、なんだコイツって思うようなキャラの時もありますよ(笑)。
- 自分の頭の中で突如生まれた他人なんですね。
- キャラの名前は最初から付いている子もいるけど、名前が決まってない時は「お前の名前は何?」みたいに本人に問いかけてます。変な名前の時もあるけれど、まあ、それはそのままで行きます。
- いきなりキャラが降りたって、そのまま動き出すのを漫画に描きとめるという感覚でしょうか?
- そうですね。シーンが浮かぶので、すぐ紙に描きとめます。そうしないと忘れちゃうので。こうですか、こうなんですか?と聞きながらグルグルやってるのですが、その子「そうじゃない!」って言う時は先にいかないですね。
- キャラが勝手に動くわけですからね。ちなみにお気に入りのエピソードはありますか?
- コミックス2巻の「デラ」ですね。キャラの個性とストーリーのバランスが良いと思ってます。突然のような幕切れも好きでした。
- デラはどうやって生まれたんですか?
- 何かの投書欄に前後は忘れたのですが「ベラ・セーラ」って言葉が書いてあって、「デラ」の間違いなんですが、イタリア語で「夕日」って意味らしいんですね。そこから取りましたね。『ゾッチャ』の時に描いた太めなブサカワな猫が原型にあるかもしれません。
- 毎回、限られたページ内で起承転結にまとめるのはどうやってるのですか?
- 話を作った後で、これが起承転結かなって当てはめることはできますけど、順番に起承転結の順番にお話が出てくるわけじゃないですよね。セリフ付のシーンから浮かぶことがほとんどですし。シーンをバラバラと組み立てていっての結果です。
- お話を作ることが難しい方もいるのでアドバイスをいただけないでしょうか。
- 物語はジャンプの高さが大きい方が面白いわけですよね。突き落としてからのジャンプの幅が大きい程面白い。そういう意識は投稿時代からありました。
- 無理に起承転結にまとめるより、そういう高低差を作って話を面白くすることの方が大事ですね。そういう生藤さんの漫画作りの原点にはどんな読書体験があるんですか?
- 小学生の頃は『ナルニア国物語』とか子ども向けの世界名作全集とか読んでましたね。あとよく覚えているのだと藤原てい著の『流れる星は生きている』とか。中学生くらいから「コバルト」を読むようになりましたけど、その頃にはもう自分で描くようになりました。文章を描くのが好きだったので、小説を遊びで書いたり、エッセイを描いたり。
- 投稿を始めたのはいつ頃からですか?
- 初投稿は二十歳で、白泉社に出したんですがBクラスから上がらなくて。つまらないので投稿をやめちゃって結婚したりして2年後くらいに集英社に送って、3本目で担当がついたんですね。
- 結婚した後に、漫画と向き合おうと思ったのですね。
- 主婦も楽しかったのですが、何年も漫画を描かずアウトプットをしていないと、風通しが悪いというか、やり甲斐がないなあと思ったんですね。私は絵を描くと他のことが出来なくなるので、もう一回投稿するなら遊びではなく、本気でやろうと思って。
- そこからデビューには何が決め手だったのでしょう?
- 絵とテーマが大きいと思います。テーマに関しては、Bクラスを繰り返していた時は待つだけで動かないキャラだったので、動くキャラにしました。
- 絵に関してはどう克服されたんですか?
- 絵柄が古いと言われたので直したんです。すごく簡単なのですが、顔の輪郭って自分の手癖があるから中々直せないんですね。だから、輪郭はそのままで顔のパーツ、目とか鼻を変えるんです。他の絵柄とかを参考に。ビックリするくらい変わりますよ(笑)。
- すごく役立つテクニックですね。他に、漫画作りに関してこわだりポイントなどはありますか?
- コマやフキダシ、キャラの配置が分かりやすいようにすることです。あとは余韻。テーマや目的からズレないようにすることですね。
- 分かりやすさを重視されているのですね。
- 1枚の原稿を見た時に華のある人って羨ましいなと思うのですが、私は絵が地味なので。人物の位置関係が分かりやすいようにを心がけています。
- 心構えとして、漫画を描く上で意識していることは?
- 自分が描いていて気持ち良いこと。綺麗じゃなきゃ嫌なので、絵が荒れるくらいなら描きたくないですね(笑)
- 最後に投稿者へアドバイスをお願いします。
- 描きたいものと描けるものって違うので、描きたいものが上手く描けなくても悲観しなくていいと思います。割り切ってしまって、自分の持っているものを活かす方法を模索してみて欲しいですね。
- 隣の芝生ではなくて、自分の持っているものを大事にですね。
- あと担当者に対して何か要求があるときは言葉にした方が良いかなと。ため込むと、いつか爆発して取返しがつかないことになったら勿体ないですし。
- そうですね。担当者に心をひらいて打ち合わせして欲しいと思います。
- あと、絵やデザインの勉強はしなくても漫画家になれるけど、しないよりはした方が良いように思います。
- というと?
- デザインとかを知ってると見せ方が上手くなると思うんですね。『ねこノート』の表紙デザインを作る時、デザイナーさんと一緒に、漫画としてよりも、モノとして綺麗に見えるように作りました。平台に置いたとき、「目立ってました」と読者に言ってもらえてうれしかったのですね。
- 確かにデザインは勉強することで選択の幅も広がりますね…! ありがとうございました!