本誌「C.C.C.」内で、様々な作家さんにキャラクター論について語っていただくコーナーが「キャラクター作りの神髄」!
HPでは、その取材模様の全文を公表します!
Vol.07:池谷理香子先生
- ケンケン(以下、K):『ハコイリのムスメ』を連載中の池谷先生に漫画作りのこと、
キャラ作りのことなどを聞いていこうと思います。 - 池谷先生(以下、池):話作りが大きく変わったのは『シックス ハーフ』ですね。
それまでは、1つ1つ考えては止まったりしながら描いていたのですが、
全体の流れ・ビジョンが頭の中に浮かぶことが大事なんだと気づきました。
大筋の流れを木の幹だとして、幹がしっかりしていることが重要。
それがないといくらネームを考えても、細々した枝葉が集まっただけで、良いネームにならないということです。 - 大筋のビジョンというと、たとえば、どういう?
- 出だしはこうだったけど、今回2人はこうなるっていう変化ですね。
それをハッキリ決めることが大事だなと。 - エピソードを羅列するだけでなく、全体のドラマが重要と気づいたのですね。
- 当たり前のことなのですが、それまでは意識してなくて(笑)。
でも、大筋の幹があれば、頭デッカチに1つずつ作るのではなく、ノリとか感覚で描いても良いんだなって思いました。
シチュエーションから作る漫画創作
- では転機となった『シックス ハーフ』はどのように出来たのでしょう?
- 私の場合は、キャラというよりシチュエーションから作るんです。
どういう状態から主人公がスタートするか。そこで障害が欲しいのです。 - 障害のあるシチュエーションからですか。それは何故?
- 私の場合、漫画で描きたいものが「切なさ」なんです。
障害を作れば、切なさに繋がるので。
たとえば、親同士が何かの被害者と加害者みたいな2人の恋とかだと、切なさが描けますよね。 - なるほど。『ロミオとジュリエット』とか、『人魚姫』とか古典作品にも恋愛の障害はつきものですね。
- 『シックス ハーフ』の場合は、主人公の詩織は出だしから記憶喪失だし、家族関係も不和。
さらに記憶を失う前の自分が結構な問題アリな子っていう、障害てんこ盛りなのですが、
「こういう恋愛の切なさを描きたい」っていうのは最初から決めていました。 - (少しネタバレになりますが)主人公が今抱えている問題をクリアし、元の記憶が戻った時、本来の恋の障害が発覚し、
切ないクライマックスになっていきますね。 - 詩織は、記憶を失う前は、ヤサグレたひどい奴ですが、 記憶を失う前が悪人で、
記憶を失って良い子になったという話が描きたかったわけではありません。
池谷さんのキャラ作りの考え方。
- お。ここからキャラ作りの方法論ですね。
- 記憶を失う前のヤサグレていた詩織は、生まれつきのヤサグレではなく、そうなる必然性があったと考えたんです。
単なる悪い奴だと読者に嫌われますから、本人の心の弱さと、そうならざるを得ない悲しさがあって、
なるべくしてヤサグレたんです。 - そこをちゃんと考えてキャラを描いていますね。
悪い人も、ダークサイドに堕ちる理由に同情や感情移入が出来れば、応援したくもなります。
設定で終わらせず、そこまで考えることが大事。 - 記憶をなくしても、その前の詩織に通ずるものがあると思ったんです。
それが弱味を見せない意地っ張りだったりするところかな。
この作品のテーマは、記憶を失っても
「自分は自分でしかない。同じサイズの靴で歩いていくしかない」ということなんです。
だからタイトルは詩織の靴のサイズの『シックス ハーフ』。 - テーマって初めから考えて描いているんですか?
- 私の場合は、『シックス ハーフ』も『ハコイリのムスメ』も描きたいテーマは初めに決めてますね。
魅力的な男キャラとは。
- なるほど。池谷先生といえば、魅力的な男キャラですが、どんなことを思って男キャラを描いているのですか?
- 自分でカッコ良くないなと思うものは、カッコ良いキャラとして描けないですよね。
基本的には、こういう人は嫌だなあというのはヒーローキャラにはしません。 - 自分に正直に作品と向き合うことですね。
池谷さんの魅力的な男性キャラ像はありますか? - 私が思うに、相手の気持ちが分かる人、察しが良い人、そこまで頭が回らないなりにも、
相手の気持ちを分かろうと努力してくれる人かなと。思います。
そういう意味での頭の良さかなと。それが無い男は、ただの顔が良いだけの人ですね。
一見、傲慢に見える男でも、主人公が困っている状況に気づいてくれたり、ぶつかったりする時も、
理解し合おうとしてくれる人は魅力的な男だと思います。 - 目から鱗です。ただの顔が良いだけの男との差は、そういう気配り…!
詩織の彼氏の開は、詩織がモデル・女優業が忙しくなってデートをキャンセルされた時に怒ってましたけど、
その後、ちゃんと詩織のことを考えて、理解しようとしましたもんね。 - 人間だれしもが完璧ではないですからね。
納得いかないことは憤ったりもします。
でも、詩織のことを大切に考えようとしてくれてるので、開は良い男だと思います。 - 脇役キャラも良い言葉を残してますよね。
詩織のマネージャーの麻木さんとか。
詩織の兄の明夫が女優業を止めさせようとした時、すごく重みのある良いセリフで明夫を説得しています。 - そういう時は、同じ目線からでもなく、上からでもなく、包み込むような視点で説得するセリフを考えますね。
説得される側より二まわりくらい大きな人として描く。 - 人間としての大きさというのも魅力的なキャラ、セリフを作るには大事な要素な気がしますね。
- でも脇役キャラは、わりとノリで出してます(笑)。
『ハコイリのムスメ』のクマさんとかは、珠子のお母さんはほんわかしてて、お父さんは厳しいので、
その中で、みんなの気持ちを分かっていて、クールなスーパーマン家政婦を入れようと思ったんです。 - ノリと言いますけど、スーパーマン家政婦なのにあの見た目っていうのがすごいキャラ立ってますよね。
メガネをかけた出来る女風のスーパー家政婦じゃなく、そこをひねるところが…!
そしてまた、どのキャラとも被らない。 - キャラは1人1人だけでで考えず、全体の相互作用で考えますね。
たとえば珠子が夏休みに家に帰った時でも、みんなリアクションが違うようにするわけです。
1つの出来事に対して、怒る人、笑う人…などなど。
それぞれが被らない行動をとるようにキャラを作ります。 - それを本能的にやっているのですね。
きっかけは、ノリでもシチュエーションからでも、その後のキャラ作り、キャラの掘り下げが大事なのだなと感じました。
本日は色々とありがとうございました。