本誌「C.C.C.」内で、様々な作家さんにキャラクター論について語っていただくコーナーが「キャラクター作りの神髄」!
HPでは、その取材模様の全文を公表します!
Vol.02:池野恋先生
蘭世は自分の理想から作ったキャラ
- 編集ケンケン(以下、K) 今回は、りぼんの名作中の名作「ときめきトゥナイト」のキャラクター作成秘話について池野先生に聞いていきたいと思います。
まずは主人公・蘭世はどのように作られたのでしょうか? - 池野恋先生(以下、池) 『ときめきトゥナイト』は、まだ内容が決まってない段階から 「次の連載はアニメ化が決まってるから」と言われていて、 予告カットの時に見た目からキャラを作っていきました。
- アニメ化の仕組みも、今とは違ったのですね。
しかし大変な状況だったと思いますが、見た目はどのように? - 吸血鬼と狼女の娘という設定は決まっていたので、担当さんから「長い黒髪か、奇抜な髪型で」と言われて、奇抜な方は面倒そうだと思ったので、長い黒髪にしました。
- 吸血鬼ですがから、やっぱり見た目も重要ですね。
アニメのエンディングや新装版1巻での黒髪ロングのストレートでマントを着けている絵が印象的でした。
蘭世の内面や性格はどのように決めたのですか? - 蘭世は本当、自分の理想をすべて詰め込みましたね。
誰しもが心には色々な闇とか、暗いものを持っているものだけど、蘭世はなるべく、そういうものは無くして。 無償の愛とか、自分では出来ないけど、蘭世にはそういうものを持たせました。
あ、黒髪ロングのストレートも自分の理想です。私は天パなので(笑)。 - 自分の理想から作ったキャラが蘭世なのですね。
では、真壁俊はどうですか? - それまで自分の漫画で、不良っぽいキャラを出したことがなかったのでやってみました。
冷たいんだけど、実は優しいっていうキャラを描こうとしたのですが、
1話では、ちょっとふざけた表情もあったりして…。後々はクールになっていきました。
当時、マガジンで連載していた『愛と誠』の誠っていう不良キャラの影響もあったと思います。 - 描いたことのないキャラに挑戦したということですね…!
最初は試行錯誤しつつも、池野さんの中で「こういうキャラだ」と固まっていったのが伺えます。
ライバルの神谷曜子はどうやって出来たのですか? - やっぱりライバルになる子が必要ということで、見た目も全然違うものにしようと。
蘭世が黒髪ロングのストレートなので、曜子は天パです。最初はただただイジワルで、俊を奪おうとする子。
いじわるだな〜と思って描いてました。
段々、愛着がわいて可愛くなっていきましたけどね。 - 曜子も後々はちゃんと活躍するようになって、見た目も美人になっていきましたよね。
最初がイジワルな悪役って、後から魅力が増していくからずるいですね(笑)。
真壁俊はこんなポーズはしない
- 曜子は、言いたいことがズバズバ言えるキャラだったので、言いたいことを言わせて発散させてました(笑)。
- 確かに…!一番発言にブレーキがいらないキャラですね!
主人公・蘭世は言いたいことを言わせられなかったですか? - 蘭世は蘭世で言いたいことは、言っているとは思うけど、蘭世には蘭世のキャラがあるので、言う内容は違いますよね。
- これって大事なことですね。結構、漫画を読んでいると、作者がこのセリフ言わせたくて、キャラに言わせてるな…っていうものを見かけることがありますが、やっぱりキャラの性格・信条・考え方があってこそなので、
発言の幅というか、どこまで言うかっていうのも重要ですよね。
キャラが決まってるからこそ、出来ること、出来ないことが出てきますね。 - はい。そういう点では、真壁俊は描くのが難しく気を遣うキャラでした。
こういう時にはこうするっていうのが浮かんでも、言い回しに悩んだり、
真壁俊はこんなポーズはしない、こんな姿はできないとか…。
当時のりぼんの付録では、本来は着ないような服も着せましたが(笑)。 - 「このキャラはこんなこと言わない、しない」ってすごく大事ですよね。
僕も入社した時、上司に「キャラは、何をするかではなく、何をしないかだよ」と言われた覚えがあります。
描くのが難しいといっても、ちゃんとキャラを掴んでいるからこその悩みですね。 - こういう性格のキャラだっていうのが自分で分かっていて、掴めていればキャラは描けるのですが、どういう風に描くかは悩みますね。
蘭世や曜子、望里は動かしやすかったですけれども。
担当から言われた自分の持ち味と強み
- ではここで投稿者にアドバイス。「キャラの性格を決め、性格が伝わるエピソードを描こう」さらに「そのキャラが何をしないor言わないか」も考えてみましょう。
・・・新人作家さんや投稿者向けにこの企画をやっているのですが、池野先生は、担当に言われて印象的だったアドバイスなどはありましたか? - デビュー作の後、2作目を作ろうとした時に、何度も直されたんですね。
デビューして雑誌に自分の作品が載った時は「私って才能あるかも!」って舞い上がってたんですが、2作目では担当に「正直、つまらない」と言われてしまって…。
ショックでしたね。現実を知りました。
「デビュー作は勢いがあって良かったけど、2作目は大人しくなってしまって、勢いがない。デビュー作のように、コミカルなノリを活かしなさい」と言われました。 - 今の役員に「作家の持ち味、作家の描きたいことっていうのは デビュー作に全部詰まっている」って言われたのを思い出しました。
やはりデビュー作には、「この人はプロになれる」と編集部が認めた要素が詰まっているわけで、
何か面白くないな、イキイキ描けてないなっていう新人は、デビュー作の良かったところを思い出してみると良いかもしれませんね。 - そうですね。それからは、自分の持ち味であるコミカルさやギャグのシーンをなるべく入れていくことにしました。
自分が描きたいっていう気持ちだけでシリアスなものをやっても、読者は楽しんでもらえないんだなって。 - コミカルさは大事ですね。コミカルなシーンがあるからこそ、シリアス展開になったとき、起伏が出ますし…!
しかし、2作目にして、「自分の描きたいものだけではダメだ。読者に喜んでもらえることを意識して、
自分の強みを出そう」って思えたのは早々とプロ意識に目覚めたということですね…! - いえいえ。そんなプロ意識だなんて(笑)。
- 『ときめきトゥナイト』のお話に戻りますが、あの壮大なお話は、初めからイメージがあったのでしょうか?
たとえば真壁俊が魔界の王子だったりとかも初めから? - いいえ、アニメと漫画が同時進行だったので、アニメの方で、魔界の王子・アロンが登場したので、
「あっ、漫画の方にもアロンを出さなきゃ。でも、アロンが魔界の王子となると、
俊も魔界の王子で、双子ってことにしよう。似てないけど二卵性ってことで」という風に後から作っていきました(笑)。 - すごい柔軟さですね! 俊は元は人間だったと…!
貴種流離譚というファンタジーの王道要素が加わり、物語がさらに壮大になりました。
魔女ヘガーテが語る「もともと世界はひとつだったが、世界は5つに分かれた」という
世界の成り立ちなどは、どういう発想から生まれたのでしょうか? - 魔界の王が持っている指輪の話の話が出たときに、
担当から、これを読めと『指輪物語(『ロード・オブ・ザ・リング』)』を渡されたんですね。
当時は映画化とかもされてなかったので、全然メジャーではなかったのですが。 - 連載で忙しい合間に小説を渡されて、ちゃんと読んでいたのですね。
- 担当さんがよく小説を送ってくれたんですよね。
SFを描こうとしたときも、『マイナス・ゼロ』ってタイムマシンものとか、
『喪服のランデヴー』とか『夏への扉』を送ってくれたので、それを読んで参考にしました。
漫画を描きながらも本はよく読んでいましたね。 - 「漫画よりも本や映画を見ろ」っていうのは、編集はよく言いますね。
やっぱり漫画を読んで漫画を描いても、スケールダウンというか縮小再生産になってしまいますし、
「この作家さんに先にこれを描かれてしまったから、これは出来ない」ってなっちゃいますけど、
小説はイメージが広がって、「よし私は漫画でこう表現しよう」とか、想像がふくらみそうですね。
映画はカット割りや物語構成の勉強にもなると思います。
壮大な物語を生み出す秘訣
自分に近い要素と理想をキャラに込める
- ちょっと漠然とした質問で申し訳ないのですが、池野さんにとって漫画を描く上で、大事なことってどういうことでしょうか?
- やっぱり願望を込めるというでしょうか。
蘭世がそうなのですが、あんな風になりたいという理想、希望、夢。
そういうものをキャラに託すこと。
自分に出来ないことをキャラにやってもらって、叶えてもらう。
お陰で、読者からは「蘭世みたいになりたい」っていう感想をたくさんいただきました。 - 現実では上手くいかないこともあるけれど、漫画は魅力的なキャラが困難を乗り越えるところが面白いですね。
それはいくつになっても変わらないと思います! - あとは、理想も大事なのですが、まったく自分にない理想だけで固めてしまうと
キャラが完璧人間になってしまい、読者から遠くなってしまうので、
自分に近いもの、自分との接点を主人公に入れることも大事だと思います。
1つだけでも自分の要素を。 - 蘭世でいうと、どんなところが共通点でしょうか?
- 蘭世だと、人間に興味があるところが自分との共通点かもしれません。
神谷さんのことも嫌いなわけじゃないですし。
私も苦手な人はたくさんいますが、人間は好きですし、
蘭世はさらにそこに願望が入ってますね。 - なるほど。自分との共通点を入れつつ、それを理想的にする、というキャラの作り方もありますね。
今回は大変参考になりました。ありがとうございます。