マンガ投稿C.C.C.

キャラクター作りの神髄

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本誌「C.C.C.」内で、様々な作家さんにキャラクター論について語っていただくコーナーが「キャラクター作りの神髄」!
HPでは、その取材模様の全文を公表します!

Vol.04:宮川匡代先生

編集ケンケン(以下、K) 15歳で漫画家デビューし、以降ずっと漫画界の一線で活躍している宮川先生にキャラ作りについて取材させていただきました。『林檎と蜂蜜』シリーズは、本当に長く続いてますよね。
宮川匡代(以下、宮) ありがたいことに、もう20年くらい描かせていただいています。長く描いていますが、最初に設定したものからは、基本的に変わっていないつもりです。
最初決めたことと言いますと?
歩や大西の性格や生い立ちなどは最初の時点で決めていましたから、そこはブレずにやっていますね。

「普通」のヒロインを作るにあたって気をつけたこと

主人公の歩のキャラはどのように出来ていったのでしょうか?
『林檎と蜂蜜walk』の前身、『林檎と蜂蜜』を描き始めた頃は、筆を折ろうかというくらい落ち込んでいた時期でした。でも、逆にキャラ作りがガラッと変わったのも『林檎と蜂蜜』からです。それまでは、重い過去や生い立ちなどのツラい十字架を背負っている主人公が多かったのですが、歩を普通のOLにして、相手の男キャラに十字架を背負わせようと。そんな風に出来ていきました。
歩は、普通の良い家庭ですくすく育った元気な女の子ですよね。確かに、とんでもない過去のトラウマや辛い生い立ちなどはありませんが、『林檎と蜂蜜』の1話では、処女なのが悩みの23歳として描かれていました。処女という悩みを入れたのは?
普通の子を描こうと思ったのですが、何も悩みがないよりは、悩みがあった方が人間に奥行きが出るかなと思いました。人間的な厚みと言いますか。歩は、明るくて良い奴なんだけど、だからこそ男からも良い友達関係で終わっちゃう。そのせいで処女というのが本人にとってはコンプレックスなんです。恋をしたいのに、仲良くなるだけ。それって、他人からしたら「そんなこと?」って思うかもしれないけど、本人にとっては結構な悩みなんですよ。
確かに、悩みやコンプレックスの無い人間はいませんし、その方が共感も出来そうですね。良い奴なんだけど、男からも良い友達止まりで処女っていうのは「わかる!」って感じがします。
そうなんです。それまでの主人公は、重い過去の十字架を背負っていたりしたので、共感とか感情移入というより、「この子、どうなっちゃうんだろう」という感じでした。『林檎と蜂蜜』の歩は、「この子、いそう!」っていうのを目指しましたね。
だから名前も日本人でよくいそうな苗字と名前だったんですね。
はい。渡辺歩ですから。いそうな名前。
「主人公を普通の子にした」とはいえ、応援したくなるような「良い奴」要素と、重すぎず共感できる「悩み・コンプレックス」を抱えているなど、押さえるとことをキチッと押さえてキャラを作っていますね…!
「良い奴」ってところが重要ですよね。その方がキャラに肩入れできるのかなと思います。
大事だと思います。そうじゃないと応援したくなるヒロインにならないですし。
一方、ヒーロー役の大西はどうやって作ったのですか?
主人公の歩は普通の家庭ですくすく育った子なので、大西は逆に、ツラいこと、一番嫌なことを背負わせました。最初、『林檎と蜂蜜』は読みきりだったのですが、その時点で彼の生い立ちなどの設定は既に決めてましたね。
読みきりだったのが、ここまで長く続くなんてすごいですね…! 読みきりとして描くとしても、そこまでちゃんとキャラを掘り下げて描くことは、やっぱり大事ですね。
大西の「自分の誕生日に両親が死んだ」っていう生い立ちがあるだけで、色々エピソードを展開できるんですよ。自分の誕生日を祝う気持ちになれないとか、1つのエピソードがあることで、さらにもう1つのエピソードが作られていくんです。

キャラ設定を作る上で気をつけること

なるほど。展開できるようなキャラ設定を…。投稿者から送られてくるキャラ表を見ると、特技とか口癖とか、好きな食べ物、星座、血液型とか、そういうことを書いてくることが多いのですが、どう思われます?
それは…私は逆にあんまりキャラ設定の段階では考えないですね。
内面の方が大事だと思います。
もっと性格の方を重視して考えた方が良いかなと。
たとえば人見知りで、目を見て話せないとかだと、「俺の目を見て話せよ」とか、ワンエピソード作れますよね。
なるほど。エピソードと結びつくキャラ設定じゃないと生かせない。
エピソードになりそうな設定を考えた方が無駄が無くてコスパが良いですよね(笑)。
あと、キャラの内側のことで言ったら、家庭環境とか友達関係、そのコミュニティの中でどんなポジションかが大事だと思います。学校では影が薄くて友達いないとか。男女ともに友達が多いとか。
人間の人格とコミュニティは切っても切り離せないですからね。
読みきりとはいえ、主人公と男の子だけで考えてはいけませんね。
作中に出てこなかったとしても、どんなコミュニティにいるか、ちゃんと考えておく必要があると。
設定といえば、大西は最初はブライダルの会社から始まってますが、NYで弁護士になったりと、すごいスーパーマンになっていますが、これも初期からイメージがあったのですか?
大西は生い立ちが生い立ちなので、最初からイメージがありました。
両親がいなくて、親戚中たらいまわしにされて…という過去の重荷があるわけですが、 だからこそ人の一番幸せな瞬間のサポートが出来るブライダル業界に入ったんです。
アメリカで育って、たくさんそこで恩を受けたからNYで弁護士になるっていうのも、
いつなるでも良かったけど、いつかはそうなろうという考えが彼の中にはありました。
両親がいないので、早く一人前になりたい、ならなきゃという気持ちが彼を努力の人にさせたんです。4ヶ国語を話せる弁護士というのも、一対一でちゃんと話したいから語学も努力したと。
一見、スーパーマンに見える設定も、すべて彼の生い立ち、性格によって点と点が線として繋がるわけですね。
はい。大西の気に入っているところは努力の人であるということです。
彼は無条件のスーパーマンではなく、努力の上にある能力なんです。
歩や周りの人に偉そうなことを言ったりするけど、努力があるから許せると思っています。
確かに、大西と歩ってよくぶつかりますよね。大西も譲らないし、歩もガンガン動くから。
でも、どっちの側の気持ちも分かるんです。僕はよく大西の気持ちに共感したりします。
お互いちゃんとモノを言うカップルの方が現実でも良いですよね。どっちかが我慢して黙っちゃったらカップルが続かないと思います。「分かるでしょ」っていうスタンスも良くないし。ぶつかっても、納得いくまで話し合えることが現実でも大事だと思います。

キャラを決めた後の動かし方

ご自分の人生観、恋愛観も出ているわけですね。
では、キャラを決めた後は、どのように動かしていくんですか?
とにかくキャラをブレさせないことです。大西だったら、こういうことは言わない、やらない!というのを徹底して描いていくことです。
大西は芯の強いキャラなので、弱音は吐かないし、泣いたりしない奴なんです。
読者の中でこういう人だと定着するように描きます。
でもある時にブツッと糸が切れて泣いたりする。そういう描き方をします。
この人は、こういう設定の性格だから、こういう風に動く、というのを徹底し、時としてそのギャップを描くことで、より魅力的になるわけですね。
そうですね。キャラの輪郭をはっきりさせるように描くんです。
その為には、それぞれのキャラの役割をキチンと分けることが大事だと思います。
歩ならガンガン動く子、やはり主人公はそうでないと動かない。
大西は彼氏だけど、自分を貫くから、ぶつかることもある。
理英は、姉御肌だから全体を見てビシッとものを言うといった感じで。

物語を作る時は、そのエピソードのゴールから

キャラの役割を被らせないことですね。
宮川さんは、物語を描くときは、どのように組み立てていくんですか?
お話を作る時は、私はエピソードの描きたいゴールから作ることが多いです。
ワンエピソードのゴールを決めて、最適なエピソードを入れつつゴールめがけて描くという感じです。描きたいゴールというのは、セリフ込みのエピソードから作るので、セリフの語順を悩んだりして2日間くらセリフだけで悩んだりすることもありますね。
これでいいや、ではなく、語順もちゃんと粘ることも大事ですね。
『林檎と蜂蜜walk』ではすごく良いセリフがたくさん出てきます。
大西が進路について考える大学生たちに「まず目標を決める。決めたらそれに向かって限界を超えて勉強して下さい。ただし、なることだけを目標にしない。なったあと、どうしたいかを目標にするのが大事」ってセリフは、単に大企業や公務員になりたがる大学生に聞かせてあげたい(笑)。
課長が大西に言った「自分は何もしないで好きな女の方にだけ痛みを背負わせる。君の愛してるは、そういうことか。まず自分からじゃないのか」っていうセリフも、ずっしり来ました。
こういうのはどうやって思いつくのですか?
連載の中では、次から次へと新たな問題を出していくのですが、
それは今までの積み重ねとか、今までの要素とかもありますからね。
あとはエピソードを作るのは、長年の訓練ですね。
大体、エピソードというのはセリフと込みで考えるのですが、
普段から、何かを見るときにエピソードにできないかを考えています。
ネイルとかなら、男の子が女の子にネイルを「やらせて」っていうシーンがあったら色っぽいなとか。綺麗なものや、単語、日本の美しい四季の言葉とか、そういうものから思いついたエピソードなどもネタ帳に書き入れたりしています。
まさに普段の積み重ねと訓練ですね。参考になりました。
日ごろから漫画のことを考え、自分の人生観、恋愛観を取り入れて漫画を描くことが大事ということですね。

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