クッキー初登場のころ
――クッキー創刊号から描いていただいていますが、創刊当時のクッキーは、どんな印象でしたか?
おしゃれでフレッシュなイメージでしたね。当時、私が描いていた『ぶ~け』という雑誌の作家さんが半分と、『りぼん』で活躍していた作家さんが半分集まって描いていて、別々の学校が合併したみたいな新鮮な感じでした。
――クッキーのカラーに合わせたまんがを描こうと意識されていましたか?
特に意識はしていなかったです。創刊当時は、どんな雑誌になるかもわからなかったので、自由度の高い作品が描ける気がしていて。そのころの短編作品は、とりあえず思いついたものを描いて、担当さんに判断してもらっていました(笑)。
『渋谷区円山町』について
――クッキーでのおかざき先生の代表作と言えば、映画化もされた『渋谷区円山町』シリーズだと思うのですが、これはどういう経緯で誕生した作品なんですか?
当時住んでいたのが、渋谷区円山町で。町名がタイトルになって店頭に並んだら、面白いなというところが始まりでした。生活していたから取材もしやすいし、おもしろい街なので、ここを舞台にしてみようと。そしたら、映画化のお話もいただいてしまって! 出演者が榮倉奈々さんに眞木大輔さんに仲里依紗さんって、今思うとものすごい豪華キャストでしたよね。
――シリーズごとのストーリーやキャラクターは、もともと考えていたものなんですか?
いえいえ。その都度考えていました。映画化もされた先生と生徒のストーリーを考えたときは攻めの気持ちがあって、スキャンダラスな話を描きたいと思ったんです。円山町を舞台にスキャンダラスなカップルといえば、先生と生徒かな?というところから話が膨らんでいきました。
――実際に渋谷区円山町で見かけた人がモデルになっていたりするんですか?
それはないかもしれないですね。人っていうよりも、場所からエピソードを拾っていった気がします。たとえば、靴をなくした女の子が『ドン・キホーテ』で買ってみたり。ネカフェ難民が話題になっているときに、ネットカフェを絡めたエピソードも描きましたね。
――ストーリーもキャラクターも、何でもありなシリーズですが、特にこだわっていたことはありますか?
何でもある町なので、何でも描いちゃうんですよね。円山町がどこまで受け止めてくれるのか挑戦するぞ!という攻めの姿勢で挑んでいたので、一見、円山町からはイメージしにくいお祭りの話を描いたりもしました。一般的には、円山町=ラブホ街というイメージが強いと思うので、最初のころは、ラブホが必ず出てくるようにしてたんですけど…。
――あ! 途中から出てこなくなりますね。
そうなんです。カリスマ美容師がどうのとか、キャラクターのはっきりした登場人物が出てくると、入れにくくなってしまって。途中からは"渋谷に昔からあるへんてこな街"というコンセプトになってました(笑)。
まんがを描く上でのこだわり
――『渋谷区円山町』のように、連載ではない"シリーズ物"ならではの難しさは、どのようなところでしょうか?
最近描いていた、ハルとサオリのシリーズだと、3,4か月に一度載るペースだったので、ストーリーは毎回完結させないといけないけど、同じキャラが次も出てくるという間合いが自分でつかみきれなくて。前の設定を忘れていたり、新しい読者の方もいるかもしれないので、最初に軽い人物紹介から始めないといけないというのが、難しかったですね。
――連載の場合は、何話か先まで考えているんですか?
私の場合、まんがはいつも「次どうしよう!?」って考えてます(笑)。連載の場合は、ものすごく先にこうなればいいなとか、この高みまで到達できればいいなという遠い目標はあるんですけど、その間を細かく作っているわけではないので。いつも出たとこ勝負です(笑)。お星さまのように遠くに見えている目標に向かって、毎回レンガを積んでいくような感じですね。途中でレンガはやめて石で作るかもしれないし、木で作るかもしれないし、どう進めていくかは、そのときにならないとわからない!
――おかざき先生がまんがを描く上で大切にしているのは、どのようなことでしょう?
連載の場合は一話一話の中で、キメのシーンを上に置いて、そこを目指して描くようにしています。最初に置いたキメのシーンの高さは変えない。その強さは変えないまま、そこまでがんばってストーリーを積み上げていくんです。
――ストーリーを考えるときに、キメのシーンが最初に思い浮かぶんですか?
そうですね。まんが家さんによって、絵を描きたい人と、話を作りたい人の2タイプがあるみたいですが、私は絵を描きたいタイプなので。こういうシーンをこういう絵で描きたいというイメージが自分の中で浮かんで、それが人から見ても面白いという勝算がとれてからペン入れを始めます。
クッキーのこれから
――創刊から10年経って、クッキーは変化したと感じますか?
実験的というか、攻めの感じがあって、まんが雑誌の中で面白いポジションにいるのは変わらない気がします。なので、作家としても攻めていけるんですよね。
――今後、こんな雑誌になってほしいという希望は?
攻めの姿勢は変わらないでほしいです。似た雰囲気の作家さんばかりが載っている雑誌もある中、クッキーは隣を見ると、全く違うファッションの人がいるような気がします(笑)。まさに、いろいろなものが共存している"雑誌"ですよね。
おわり
構成/古川はる香
プロフィール
おかざき真里先生
6月15日生まれ。26歳のときに『バスルーム寓話』で『ぶ~け』よりデビュー。現在は3人の子供を育てながら、夜8時に寝て、深夜2時に起きて仕事をするという生活を続けている。