まんが家インタビュー

Cookie10周年記念企画クッキーまんが家インタビュー

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2010年Cookie4月号掲載志村志保子先生

クッキーのイメージ

――松田先生とクッキーとは『石田衣良の人生相談室「答えはひとつじゃないけれど」』のイラストで長年おつきあいいただいていますよね。

そうですね。もう6年くらいになるんじゃないでしょうか。

――イラストを描くときには、どのようなことを心がけていますか?

あのイラストは、お悩みや衣良先生のお答えとは少しずれた話を描くようにしているので、どちらかというと読みきりまんがの一番重要なシーンのような感覚で描いていますね。大きいコマでばーんと描くシーンを考えるような感覚です。

――まんが連載をするとなると、クッキーと向き合う姿勢が変わったりもするのでしょうか?

それはないです。まんが連載かイラストかというよりは、雑誌ごとのカラーにどう合わせていこうかで悩みますね。

――クッキーという雑誌にはどのようなイメージがありますか?

少女まんがの王道だけど、リアル寄り。リアルをかすめつつ、少女まんがのロマンチックな部分もあるのがクッキーですよね。

松田式物語の作り方

――今月号からはじまる『東北沢5号』と9月号に掲載された『一週間のミチ』は、つながりのある物語なんですよね。どこから思いついたストーリーだったんですか?

クッキーでまんがを描きませんか、と声をかけていただいたときには、「次に連載をするならこれを描きたい」と思っていたネタがあったんです。ただ、それをクッキー読者に向けて、どういう風に描けばいいのか悩んでしまって。なので、実はお話をいただいてから、数年経ってるんです(笑)。

――そうだったんですか! では、そんなネタをどのようにストーリーとして組み立てていったんでしょうか?

オカルトチックなんですけど(笑)、映画みたいに映像がばーっと頭に浮かぶんですよ。細切れに頭に浮かんだシーンを振り返って、どうしてこの人は叫んでいるんだろう? どうして笑っているんだろう? と考えてつなぎあわせていくうちに、ストーリーとキャラクター像ができていきます。『東北沢5号』は、去年の10月くらいに、夜、布団に入ったら、ばーっと絵が出てきて、うわーって泣いて。次の日も、また寝ようとしたら続きの絵がばーっと出てきて、またうわーって泣いて。それで話の骨格ができました。

――いつも、そういう感じで物語を作っていくんですか?

そうですね。なので「次の連載お願いします」と言われて「はい!」と描けるわけではないんです。まだ熟成していないんです…みたいな感じで(笑)。絵が浮かぶまでひたすら待って、つかんでいきます。

――つかめてからは、すぐに描けてしまいます?

そうでもないですね(笑)。特に『一週間のミチ』の場合は、クッキーに対して、自分の描き方をどう調整したらいいのか、チューニングがなかなか合わなくて…。ものすごく苦労しました。ひと息置いて、連載が始められてよかったです。『東北沢5号』初回のネームを描いたときには、かなりチューニングが合わせられた気がします。

東北沢5号について

――松田先生が、今回の連載で描きたいのは、どのようなことですか?

女の子が少しずつ成長していく様子ですね。それは母親の影響から離れるということであり、自分自身を見つけるというより、自分自身になる感じ。自分自身って、あるときふと見つかるものではなく、行動していくうちに、友達やそのときの状況を通して発見して身につけていくものだと思うんです。そういう過程が描ければと。多分、これが一生に一回きりの、女の子のグローイングアップものだと思うので!

―― 一生に一回と言い切る理由は何ですか!?

もしかしたら数年後に「まだ描けた!」ってなるかもしれないんですけど(笑)若い女の子の風俗についていけるかが不安で。時代に関係なく変わらないものを頼りにして、言葉づかいもスタンダードな方に寄せて描くつもりなんですけど、普段テレビも観ないし、音楽にも詳しくないし、今、女子中高生と会話しても「それ何?」って聞くばっかりだと思うんですよ。今は、下北沢に住んでいて、若い娘っ子を目にする機会は多いので、まだなんとかなるかと…。

――新しい連載を始める楽しさもありますか?

若い女の子向けの雑誌でまんがを描くのが初めてなので、何もかもが新鮮で。新しい街に引っ越してきて、ここはどこだろう!?ってくらい異様に緊張しています(笑)。人生初の連載を始めるときくらいに!

新しい雑誌で描く意味

――今までは『コーラス』など、『クッキー』より大人向けの雑誌で執筆されていましたが、そこから若い世代向けの雑誌にも活動の場を広げると言うのは、まんが家として珍しいことですよね。

私の場合、27歳の時に大人向けの雑誌でデビューしたので、まんがを読みなれていない人には、わかりづらい描き方をしてしまうんですね。少女向けの雑誌での王道な少女まんがの描き方を、ずっと避けてきたんです。でも、まんが家である以上、一度くらいは、王道パターンの描き方をしてみようかと。自分としては、少女まんが界の番外地に住んでいる感覚なんですけど、そこから逆走していっている感じですね。しかも、暴走している(笑)。

――今、ようやく大通りに出てきたんですね(笑)。

しかも、反対から(笑)。みんな、よけてーーーっ!って叫びながら走ってます。

――王道の描き方を避けてきたのは、人のマネをしたくなかったとか?

そうです。若気の至りで「すごい!」って人に言われたい感覚が強かったんですよね。ひねくれてやってきたから、取りこぼしたものも多くて。それを「あのときは素直になれなかったけど、今やってみます!」という感覚です。

――新境地を開く連載になりそうですね。

本当は、すでに通らないといけないところだったんですけどね(笑)。最近、男子を観察することが増えて、男の子っておもしろいなと思うようになったんです。なので、今回の連載では、男の子の群像も描こうかなと。

――今回の連載、どのような作品にしたいですか?

ポップな中にも、苦味のあるものに。世の中、明るくて甘いだけじゃない事は、クッキー読者なら十分ご存知だと思うので。もちろん、苦いだけでもないですけれど、今回は、苦めな作品に仕上げていきたいと思っています。

おわり

構成/古川はる香

プロフィール
松田奈緒子先生

長崎県出身。27歳のときに『ファンタスティックデイズ』で『コーラス』よりデビュー。『レタスバーガープリーズ、OK,OK!』、『少女漫画』など独特の感性が光る作品を執筆している。

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