クッキーで描くきっかけ
――生藤先生が現在も連載されている『ゾッチャの日常』は、クッキーが創刊する前から描かれていた作品なんですよね?
そうです。もともとは『ぶ~け』というまんが雑誌で連載していて。クッキーの創刊をきっかけに、作品はそのままで連載する雑誌が変わったんです。あれは貴重な体験でしたね(笑)。
――連載する雑誌が変わることで、苦労されたこともあるのでは?
雑誌が変わるということは、読んでいる人が変わりますからね。繋がっている話なのに、今までのストーリーを知っている人は誰もいない状況で、いきなり続きから始められないでしょ!? 新しいエピソードを使って、今まで描いたことと繋げていくのに苦労しましたね。
――飼い主が麻綾になったのも、クッキーに連載が移ったためですか?
そうです。それまでは結婚している夫婦が飼い主だったんですが、クッキーが若い子向けの雑誌なので、高校生にして。でも、飼い主を変えたことで、今までの流れと繋げる苦労がかなり軽減されたように思います。
ゾッチャ誕生について
――そもそも『ゾッチャの日常』を描こうと思ったのは、どうしてだったんですか?
動物が主人公のショートまんがには、まんが家としてデビューする前から興味があったんです。デビュー後しばらくして時間が空いたときに、昔飼っていた猫のおもしろいエピソードをまんがに描いて、編集の方に見せたのが、『ゾッチャ』の始まりですね。
――ゾッチャのモデルは、生藤さんが以前飼っていた猫なんですね。
そうです。でも、名前も見た目も全然違うんですけどね(笑)。
――飼っていた猫のエピソードだけで、ここまで続けているわけではないですよね?
ゾッチャのキャラクターがある程度確立された段階で、だいたいの話の流れを作って、それに合わせてキャラクターを動かしていけば、ストーリーができるようになっていたんですよ。猫のことは飼っている間にある程度観察していたから、どういうときにどんな表情をするかなどは覚えていますし。デッサンは参考になるものがいくらでもありますからね。
――現在は猫を飼っていないそうですが、今後また飼ってみたいという気持ちはありますか?
『ゾッチャ』を描いている間は飼えないかな。ゾッチャに慣れてしまっているから、飼っても猫がかわいそうな気がして。
――『ゾッチャ』を描いたことで、猫に対する気持ちは変化しましたか?
あまり変わらないですね(笑)。猫まんがを描いていると「猫好きなんでしょ?」って言われるんですけど、一般的な「猫好き」とはちょっと違うのかな。対等な関係であるとしか言えないですね。
『ゾッチャの日常』の意味
――従来の動物ショートまんがと比べると、『ゾッチャの日常』は、ゾッチャが誘拐されたり、遭難したり、サバイバルなエピソードも多いのが斬新に感じます。
そうですね。そのほうがドラマになるでしょ。いつもと違う環境に放り込まれると、葛藤が生まれるじゃないですか。私はそれを描きたいんだと思うんです。いつも同じことの繰り返しで、あったか~い日常じゃつまらない! 自分でも容赦ないなと思うこともありますけどね(笑)。
――ゾッチャが明日どうなっているかわからないというのが、このまんがの特徴ですね。
私は“日常”って、いつも同じテイストのことばかりが起こるわけがない。いろいろなことが絶対にあるはずだと思うんです。そういう気持ちで『ゾッチャの日常』というタイトルをつけたんですが、一般的には同じような日々が続くイメージみたいですね(笑)。
――ゾッチャはこれからも過酷な体験をしそうですか?(笑)
そこまで過酷なことはないかな(笑)。自分の中で、そのときのテーマがあるんです。「これからしばらくは、こういう切り口で」とか「それが終わったら、こういう方向で」とか。今は、日常の中のささいなことを、丁寧に拾って描いていきたいので。牧場編みたいに大仕掛けなエピソードはないでしょうね。(※牧場編では、川で真綾とはぐれてしまい、牧場に拾われたゾッチャが、野良猫たちに混ざって 厳しい生活をすることに!)
生藤先生の気になるもの
――生藤先生自身、動物が主人公のまんがは、お好きなんですか?
いえ。実はまんがをそんなに読まないんですよ(笑)。まんがだけでなく、ドラマも小説もそうなんですが、フィクションというか…出来上がっているものにあまり興味がなくて。
――そうなんですか! 普段どんなものを読んだり観たりされるんですか?
ドキュメンタリーだったり、ノンフィクションだったり、素材の段階のものにひかれます。本だと写真集もよく買いますけど、デザイン関係やインテリア系、室内装飾の本をよく読んでいますね。テレビだと、ニュースにも、まんがに使えるネタはありますし、誰かが作ったものではなく、そこらへんい転がっている、ただの素材からネタを見つけるのが好きなんだと思います。
今後のクッキーに求めること
――創刊当時のクッキーの印象は、どのようなものでしたか?
編集部の方も、まんが家の先生たちも、テンションが高くていい感じだなと思いました。新しい雑誌を創刊させる現場に立ち会えるおもしろさがありましたね。
――それから10年が経って、印象は変わりましたか?
若干変わった気はします。読者の嗜好が変わったんじゃないでしょうか。
――今後のクッキーに求める事はありますか?
小さくてもいいから、読んでいていつも発見や驚きのある雑誌であってほしいです。お店のショーケースと同じように、いつ見ても変化がないのじゃつまらないから。その小さな変化が積み重なって、何年か経つと大きく変わっているというのが、おもしろいですよね。
おわり
構成/古川はる香
プロフィール
生藤由美先生
7月23日生まれ。30歳のときに『白い花のように』で『ぶ~け』よりデビュー。98年より『ぶ~け』にて動物ショートまんが『ゾッチャの日常』の連載をスタート。