まんが家インタビュー

Cookie10周年記念企画クッキーまんが家インタビュー

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2010年Cookie4月号掲載池谷理香子先生

クッキーで描くきっかけ

――池谷先生が『クッキー』でまんがを描くようになったのはどんなきっかけだったんですか?

それまでは大学生、社会人向けの雑誌で描いていたんですが、もう少し若い人たちに向けて高校生くらいを主人公にした作品を描いてみたいと思ったことですね。

――若い世代を描きたいと思ったのには理由が?

かわいいから(笑)!若い世代って、本人たちは気づいていない不思議な魅力があるんですよね。それを描いてみたかった。もちろん他の世代の魅力も今後描いてみたいけど、若い子たちの魅力を描くのは、自分が年を取っていったらどんどん難しくなるだろうから。描くとしたら今が最後のチャンスかなって。

――実際に描いてみて気づいたことはありますか?

最初は「若い子ってこんなこと考えるのかな?」って"若い子"を意識してかしこまっていたんだけど、あるとき"若い子もお年寄りも気持ちは同じ"ってことに気づいたんです。恋愛しているときや何かに夢中になるときの気持ちは年齢や時代が違っても変わらない。無理に合わせようとすると間違えちゃうんだろうな。

「微糖ロリポップ」を振り返って

――「微糖ロリポップ」ですが、どのキャラクターもとても個性的ですよね。特に思い入れのある登場人物は誰ですか?

思い入れは誰に、というより作品全体に、ですね。描きやすかったのは知世と円のお父さんです。その次が千鶴さんと円のお母さん。その次がやっと主人公の円かな。

――そうなんですか! 主人公の円より知世のほうが描きやすかった理由は?

私、人間の感情の中で"切なさ"が一番好きなんです。触れたいけど触れられないのを我慢してる姿とかすごくステキだと思う。「微糖ロリポップ」の場合は、円がずっと迷ってるのに対して、知世は最初からずっと“円が好き”って気持ちが定まってるから。どうしても知世の方が見てると切なくなるし、生き生きと描けちゃうんですよね(笑)。

――円のお父さんはどのあたりが描きやすかったですか?

円のお父さんが感情をはっきり見せるところとか、ある意味、私の理想の父親像なんです(笑)。

――ダメなところはあるけど、なぜか憎めないお父さんでしたよね。池谷先生は登場人物のダメなところを、とてもやさしく描かれている気がします。

ありがとうございます。私自身、完璧な人が苦手なんですよね(笑)。むしろダメなところを見るとすんなり打ち解けられるくらいで。だから、ダメなところも人間のひとつの面という気持ちで描いています。

「シックス ハーフ」の世界観

――現在連載中の「シックス ハーフ」と「微糖ロリポップ」で大きな違いはどんなことですか?

毎回連載が終わって次の連載が始まると、あっという間に前の連載の内容を忘れちゃうんですよね(笑)。具体的に「ここを変えよう」と考えてるわけではないんだけど、主人公のキャラが濃くなってるのはひとつの違いかな? 「シックス ハーフ」の登場人物の中だと詩織が一番描きやすいかもしれない!

――主人公が記憶喪失になっているというのも、また印象的な始まりですよね。

記憶がないってやっぱり切ないじゃないですか。日常生活の細かい切なさを描くにはまだ実力が足りないから、記憶喪失っていう設定があると描きやすいかなと思って。“シックス ハーフ”というのは靴のサイズなんだけど、記憶=中身がないとわかっていても、同じ体で歩んでいかなきゃいけない。そういう意味がこめられているんです。

まんがを描く上での心がけ

――池谷先生がまんがを描く上で心がけているのはどんなことですか?

ひとつは印象に残るいいシーンを描くこと。例えば登場人物がつきあうシーンだったら、その後2人がダメになってしまったとしても、読者の人たちに「あの瞬間の気持ちは真実だったよね」って納得してもらえたら成功だと思っていて。そのためにはどんなセリフを書くかがとても重要なんですよね。読んでいる人たちが、自分が言われたような気持ちになれる言葉を見つけるまで、すごく悩みます。

――確かに池谷先生の作品には、ぐっとくるセリフ満載ですよね。どうやってそんなセリフにたどりつくんですか?

それはもうひたすら考えて、考えて、でも考えすぎるとよくないから、一度別のことをして気分転換して(笑)。それからもう一度自分の描いたものを読み返して、「この流れならこのセリフがいいのかな?」って考えてます。

――ひとつのセリフにたどりつくまでに相当な時間がかかってるんですね!

絵も自分が納得できるまで何度も下描きしますね。場合によっては1日中同じコマを描いていることも(笑)。まんがって、読者の方には結果しか見てもらえないじゃないですか? だったらいい結果が出るまで途中経過にこだわるしかない! カッコ悪いけど、必死に描いてます。

今後の『クッキー』に希望すること

――今後の『クッキー』に期待することはありますか?

今みたいにいろんなタイプの作家さんが描いている雑誌でいて! パッと開けたらいろんな形のチョコレートが入っているようなカラフルな感じで。自由に好きなことを描ける懐の深い雑誌であってもらいたいですね。

――池谷さんは高校生が主人公の作品を描き続ける予定ですか?

それは決めてないし、決めない方がいいと思っています。自分がわくわくして、感情移入できないといい作品は描けないから。そのとき描きたいものを描いていきたいですね。もちろん自己満足にならず、読者の方たちに楽しんでもらえる作品であることも大切なので、私が思いついた感情をできるだけ共有してもらえる作品が描けたらいいな。作り手と読み手が同じ気持ちになれるのが、まんがを描く醍醐味でしょう!

おわり

構成/古川はる香

プロフィール
池谷理香子先生

11月5日生まれ。20歳のときに「いつか何処かで」で『YOUNG YOU』よりデビュー。代表作に「サムシング」、「FUTAGO」などが。現在『クッキー』にて「シックス ハーフ」を連載中。

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初登場「小さい羊は夢をみる」クッキーボックス'07年初夏号

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母と離婚した義父と2人で暮らす柚季。
「この作品は完全に若い子向けというより、それまでの流れとの中間な感じですね」

「微糖ロリポップ」第1回扉

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連載初回の扉は円と知世。この2人がくっつくことは最初から決めていたことなのだとか!

「微糖ロリポップ」2巻

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「このシーンの直前まで、知世は円とつきあいたいとは一度も考えていない。それでも知世が告白する気持ちを読者が納得できるシーンにしたかったんですよね」

「シックスハーフ」第1回扉

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「シックス ハーフ」1巻

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孤独だった詩織を救った明夫のひとこと。「明夫がいい人だからじゃなく、本心から言ったことが伝わるよう考え抜いたシーンです」

「微糖ロリポップ」7巻

「微糖ロリポップ」7巻

「いろいろあってやっと結ばれる場面だから、ただ"好き"じゃ足りない。どんなセリフを言わせたら"やっとくっついた!"という印象になるか悩みましたね~」

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