藤末先生と『クッキー』の出会い
――藤末先生はクッキーが正式に創刊される前に出した、増刊号の時代から作品を描いていただいてますよね?
そうですね。当時描かせていただいてた『ぶ~け』編集部の方から声をかけていただいたのがきっかけです。
――『クッキー』で作品を描くにあたって、何か意識したことや考えたことはありますか?
そのころ私がほかの雑誌で描いていた作品を見せたら「この方向でお願いします!」と言っていただいて(笑)。なのでクッキーがどういう雑誌なのかや、どういう方が読むのかは特に意識せず、自分が描きたいものを描かせていただいた感じです。
――実際に出来上がった『クッキー』をご覧になっての印象は?
「これからみんなで雑誌を作るんだ」という気合いが伝わってきました。作品を描かれているのがすごい方ばかりだったので「こんなところに載せていただいてありがとうございます!」という気持ちでした。
――こちらこそです! 創刊から関わっているということで、藤末先生の中で『クッキー』に対して特別な感情はあるものでしょうか?
こんなに長く描かせてもらえるとは思っていなくて。がんばらないといけないなと思います。でも、あまり考えすぎると私、空回りしてしまうほうなので、気負いすぎないようにします。
――ご自分の作品以外で、クッキー10年間の思い出深い作品は何でしょうか?
やっぱり「NANA」ですね。『クッキー』創刊号の「NANA」って100ページもあったじゃないですか。矢沢先生が「この夏すべてを犠牲にして、この百ページに挑みました。」ってコメントしていらして。「これはすごい意気込みだ!」と感動し、同時に自分もがんばろうと思いました。
新連載「プライベート タイムズ」とは!?
――今月号からの新連載「プライベート タイムズ」は2010年『クッキー』1月号に掲載された読み切り「さみしがりやらら」と関わりがあるとか?
「さみしがりやらら」に出てきた小学生の女の子・青葉が高校生に成長して、主人公として登場します。
――昨年、6年間続いた連載「あのコと一緒」を終えられて、また全く新しいストーリーを考えていくのはどんな気持ちですか?
世界観を作りこんでいって、登場人物のキャラクターがだんだん自分の中でクリアになってくるのが楽しいです。連載を始める前に登場人物の人物像はしっかり決めておきます。中には最後まで出てこないようなエピソードも多いんですけど。
――ストーリーはどのくらい決めて描きだすんですか?
最終的に行きつく方向と途中で必ず通るポイントはいくつか決めておいて、あとはひとつひとつのポイントに向かっていくように考えていくかな。そのポイントをはずすと軌道修正できなくなってしまうので、そこだけは守って、ポイントとポイントの間はいろいろと考えて楽しんで描きます。
――これから始まる新連載について思うことや意気込みを聞かせてください!
読んだあとにもやもやするのは「あのコと一緒」で十分やったので・・・、今度は読後感がすっきりした作品にしたいですね。「やるぞ!」と意気込んだからといってうまくいくほうではないのですが・・・、がんばりたいと思います!
「あのコと一緒」ができるまで
――昨年終了した「あのコと一緒」が生まれたきっかけを教えてください。
思いついたのは、自分が高校生のころでしょうか・・・。女の子なのか男の子なのか、いくつくらいの人なのかも考えていなかったんですが、2人の人間がいて、そのうち1人が表の世界にいって、もう1人は裏の世界にいってしまうという話をいつか描きたいと思っていたんです。
――そんなに前から温めていた構想だったんですね!
当時は漠然としたものだったんですが、連載を始めるにあたってこの構想を膨らませてみようと思って。はじめは専門学校生にするか高校生にするかですごく悩んだんです。
――そうだったんですか! 高校生に決めた理由は何だったんでしょう。
こういった人間関係で悩むのって、高校生のほうが現実的かなと思って。専門学校生くらいになると、少しイヤだなと思っても色々対応できそうですし。
――かのりたちが抱える悩みはすごくリアルですよね。確かに高校生ってこういうことで悩んだなと思い出されます。
描いている間は一緒になって悩んでました(笑)。悩みグセがついてしまって、日常生活の中でもふと“こうやって悩むんじゃないかしら?”とか悩みのことばかり考えてました。
――かのりと香澄はどちらが先に思いついたんですか?
香澄ですね。かのりはその正反対のキャラとして考えました。
「あのコと一緒」連載を終えて
――では、「あのコと一緒」というタイトルはどう思いついたものですか?
“あのコ”という言葉を使いたいと思って、あとはイメージに合う言葉をくっつけてみて、その中から響きと字面で選びました。タテに書いてみたり、ヨコに書いてみたりして一番しっくりきたのがこれでした。
――この作品で、藤末先生がお好きなのは誰ですか?
香澄かな? 今はこんな感じだけど、いつか幸せになってほしいな~と思いながら描いていました。
――藤末先生が一番描きたかったのはどんなことでしょう?
日々、ちょっとしたことで気持ちが変わっていくというところです。なので実際には6年経ったんですが、連載の中では1年しか時間が経過していないんですよね(笑)。
――6年もの連載を終えたことについては、どんな気持ちですか?
「コミックス13巻も出してくれてありがとう!」ですね。
――いやいや、13巻分も描いたのは藤末先生ですから(笑)。これだけ連載期間が長いと、モチベーションが下がってしまった時期もあるのでは?
それはないですね。「もうこの辺で終わらせたほうがいいのかな?」というのはたまに思ったりしましたけど。最終回まで楽しく描かせていただきました。
――「あのコと一緒」は藤末先生にとってはどんな作品ですか?
かのりや香澄たちが今でもどこかで生きているような気がします。また新しい恋愛をしてるかもしれないし。「あのコと一緒」という作品を通じて、たまたま彼女たちの高校時代の1年間に立ち会ったような感覚なんです。
「あのコと一緒」連載中のウラ話
――連載中の思い出深い出来事は?
「あのコと一緒」って、最初は3回で終わるはずだったんです。そのあと読み切りを1本描いて、次の連載を始めるという予定になっていて。それが急遽4回以降も続くことになり、結局コミックス13巻も出させていただいたのは思い出ですね。
――そうだったんですね。読者の方からの反応で記憶に残っていることはありますか?
不定期で連載させていただいていたんですが、掲載がない時期にもらったお手紙に「わかった! 今休んでるのは受験ですよね?」と書かれていて(笑)。若い読者の方がどうやら高校生が描いてると思ったらしく……。「申し訳ない! 申し訳ない!」と心の中で謝っていました(笑)。
藤末先生のデビュー秘話
――藤末さん自身はかのりや香澄と同じ高校時代にまんが家デビューをされたんですよね?
そうです。高1でデビューが決まったんですが、デビュー後は描いた作品がなかなか掲載まで至らず……。そのまま、まんがを描かなくなってしまって。
――それくらい高校生活が楽しかったんですか?
どうなのかな? そんなに活動的ではなかったですよ。友達と買い物に行くのが楽しい普通の高校生でした。
――買い物に行くためにバイトをしたりも?
親が厳しかったので高校時代はバイトができなかったんです。その代わりまんがで賞をとったときの賞金があったので(笑)。
――賞金ではどんなものを買ったんですか?
自分用のコンポを買いました。その頃はコンポって高くて、なかなか高校生のおこづかいでは手が出せないものだったんですよ。
――そもそもまんがを描くようになったのはいつごろから?
最初は小学生のころに。ノートに描いて友達に見せるような感じでしたけど。本格的に投稿するようになったのは中学2年からです。
――初投稿はどんな作品だったんでしょう?
う~ん。記憶の彼方にいってしまいましたね(笑)。ラブコメだったことは覚えてるんですけど……。
――ラブコメ!? ちょっと意外です。
そうですか? 私、もともとギャグまんが好きなんですよ。好きだったまんがも「あさりちゃん」とか「パタリロ」だし。徳弘正也さんの「狂四郎2030」のギャグとシリアスのバランスがすごく好きです。
――普通の高校生に戻った後、またまんがを描かれるようになったのはどのようなきっかけで?
就職活動で会社の面接などを受けているときに、「そういえば、私まんが描きたかったんだ!」とふと思い出したんです。1年だけ投稿を続けて、結果が出なければあきらめようと決意したんですが、最初に投稿した作品が入賞して再びデビューできました。
――そして今に至る……という流れですね。創刊からクッキーとおつきあいいただいている藤末先生ですが、今後のクッキーに期待することは?
ずっとなくならずに続いてほしいです。また20周年、30周年のときも活気あふれるお祝いが見られて、私も参加できればうれしいです。今後ともよろしくお願いします!
おわり
構成/古川はる香
プロフィール
藤末さくら先生
2月28日生まれ。愛知県出身。高校1年生のときに『ぶ~け』からデビュー。その後、『ぶ~け』『別冊マーガレット』などで活躍。10代、20代のリアルな心情を描いた作品に定評がある。
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「プライベート タイムズ」
様々な質問に一問一答形式で答えていただきました!
Q:自分の性格をひとことで表すと?
A:マイペース?
Q:まんがを描くときの必需品は?
A:コーヒー。最近午前中は牛乳を入れてカフェオレにしてます。胃にやさしいかなと思って(笑)。
Q:好きな食べ物は?
A:体に良さそうなもの。
Q:嫌いな食べ物は?
A:魚卵全般。
Q:好きな男性のタイプは?
A:背が高い。『あのコと一緒』の江奈の間延びした背中は私の好みです。
Q:好きな男性のパーツは?
A:首と肩をつなぐ筋肉!
Q:もしまんが家になっていなかったら?
A:思いつきませんが、以前は会社員をやっていたのでそのまま会社員をやってたんじゃないでしょうか?