クッキー創刊といくえみ先生
―クッキーで初めて描かれた作品と創刊時のクッキーにどんな思い出がありますか?
クッキーがまだ増刊号だった時代の2冊目に「おうじさまのゆくえ」という読み切りを描かせていただきましたね。そのときの『クッキー』は……「NANA」の印象が強いかな。だーん!と表紙も飾っていたし。
当時は『別冊マーガレット』の専属作家だったんですが、フリーになって、他の雑誌へと活動の幅を広げようかと考えている時期でもありました。『クッキー』での読み切り作品執筆もそんな状況の時にきたお話でしたね。大人っぽいまんがを描きたいというわけではなかったんですが、『別マ』以外の雑誌に手を伸ばしたらおもしろいかなと思っていたころでした。でも、『クッキー』で連載するぞ!とも考えてなかったかな(笑)
いくえみ先生のこの10年間
―クッキーは2010年で10周年を迎えましたが、いくえみ先生はこの10年間を振り返ってどんな思いがありますか?
この10年あっという間でしたね~。いつでも変わらないんですが、楽しく仕事していたらいつの間にか時間が過ぎていった感じ(笑)。いろいろな雑誌で仕事するようになって、今まで気にしたことがなかったスケジュール表を作ってみたんですけど、半年しか持ちませんでした(笑)。結局今は頭の中で"あの雑誌は何日が締切りだな"って考えるだけ 。
―仕事の量が増えて、やり方やペースなども変わりましたか?
ネームが早くなりました。前はずうっと何日もかけて考えてネーム出来たら抜け殻、くらいの勢いだったんですけど、今の体力でそれをしたらまっ白な原稿を出すことになってしまうので体力温存の方向で、ネームは素早く。原稿も素早く。あとは寝ます。
「潔く柔く」誕生秘話!?
―そして7年ほど前から「潔く柔く」を描き始めていらっしゃいますね。この「潔く柔く」、様々な人物とストーリーが絡み合っていますが、最初からここまでの壮大なストーリーを思い描いていたんですか?
初めて『潔く柔く』が載った号……実は本当は別の作品を描く予定だったのが、急遽「潔く柔く」でいくことになったんです。そのときは連載ではなくとりあえず前後編のつもりで描いていたので、こんなに長く続くことになるとは……という感じですね(笑)
「潔く柔く」登場人物の繋がり
――「潔く柔く」もカンナ編が佳境に入って、物語の行きつく先が見えてきた感じですよね。「潔く柔く」のおもしろさと言えば、関係なさそうに見えた登場人物たちが実は繋がっているという設定ですが、この繋がりは連載初期から綿密に練り上げていたんですよね?
まったく考えてませんでした(笑)。
――そうなんですか!?(笑)。
もともと構想とかあんまり考えないでふわっと始める人なので(笑)。メモもとるんだけど、メモしたところを忘れちゃうんです(笑)。それで最近は携帯電話に入れるように。「潔く柔く」をひとつの話に繋げようと思いだしたのは禄編からですね。でも、誰と誰をどういう風に繋げるかまで細かく考えたわけじゃなくて、まぁやってるうちにどうにかなるかなって(笑)。"この人がここに出てくればいけるかな~?"なんて、そんなノリで決めていきました。
――"そんなノリ"で決められたとはまったくわかりませんでした!(笑)いくえみ先生はご自分の作品を読み返すのが苦手だと聞いたことがあるのですが、今まで出てきた登場人物が一気にまとまるカンナ編も読み返さずに描かれたんですか?
カンナ編を描く前はさすがに読み返しましたね。それから物語の整理もしました。まずカンナはどこに就職したのかを考え始めたんだけど、8巻で禄が"出版社に就職する"って言っちゃったので、これを使わないとって話になって。"カンナは性格的に営業に向いてるだろう。""出版社と取引がある営業の仕事って?"というところから一番しっくりきたのが映画会社だったんです。
赤沢禄が生まれるまで
――禄編から話の繋がりを考えていたということは、禄とカンナは出会うべくして出会ったということなんでしょうか?
一恵編のときにカンナがクローズアップされて、カンナ人気も結構あったので、ある人から"カンナを幸せにしてあげたいんですけど、誰かいい男いないですかねー"とオファーがあったんですよ(笑)。それで出てきたのが禄なんですが、わりと女子に不人気なヤツで(笑)。三千花のことやり逃げしちゃったのがよくなかったんでしょうね。男の子だったら、ありがちなことだと思うんだけど……。
――禄に限らず、いくえみ作品の登場人物は、みんなちょっと嫌なところもあればかわいいところもあって、憎めない人物ばかりですね。
誰だって嫌なところもあれば、いいところもあるものですから。どんな登場人物にもなんとなく救いはほしいと思って描いています。もちろん出てくる人物みんな幸せにしたい気持ちもあるけど、中には報われない人も出てきちゃうんですよね~。
最終回を描く心境
――いよいよカンナ編のラストを描かれるわけですが、すでに構想は固まっているんでしょうか?
なんとな~くぼやーっとしたものがあるんだけど、あまり考えないようにしています。ネームを描く前にしっかり考えて形にしてしまって、いざ描き始めたときに"あれ?"となるのが嫌なので。実際描きながらそのときに出てきたことのほうが自分にとっては新鮮でいいかなと。単に逃げてるのかもしれないけど(笑)。
――「潔く柔く」はいくえみ先生にとって最長の連載作品になりましたよね。そのエンディングを描くというのは、どんな心境なのでしょうか?
連載が終わるのがさみしいというまんが家さんの話も聞きますけど、私はきちんと完結できることがうれしいですね。原稿そのものを描きあげたときよりもネームを完成させたときのほうが"やったー!"って気持ちになる。「潔く柔く」はやっぱり長く続けられたことが楽しかったな。
いくえみ先生&クッキーの将来
――いくえみ先生が『クッキー』10年の歴史の中で、いちばん思い出に残っている作品を教えてください。
それはやっぱり『NANA』かな~。ストーリーがどうなるのか気になりますよね!? 新しい『クッキー』が届くとまず最初に読むのが「NANA」ですし、担当さんとの打ち合わせでも"そういえば、今月の展開すごかったですね!"って「NANA」話で始まることも(笑)。
――10周年を迎えて、今後の『クッキー』に望むことがあれば伺いたいのですが。
個人的に4コマまんがとかエッセイまんがが好きなので、『クッキー』でもおもしろい4コマやエッセイまんががもっと増えるとうれしいかな(笑)。あとは、個性のある新人作家さんの出現も期待しています。
――最後に、いくえみ先生の今後の展望について聞かせてください!
連載と同じで、あまり先のことは考えないようにしてるんです。計画を立てないで生きているので、将来のことは基本的にノープラン(笑)。
おわり
構成/古川はる香
写真/福尾美雪
いくえみ先生のデスクの近くには、黄色いクッションが。ここは猫たちのためのスペースなのだとか。
すっきりと片付けられ使いやすそうな仕事場。整頓にもいくえみ先生アイデアが?
いくえみ先生宅のペット・シロ。この表情は「お散歩に連れてって」の顔ですか? いくえみ先生宅にはほかにも猫たちがいます。
仕事場全貌。いくえみ先生が座る赤いイスの後ろにはスクリーントーンを納めた棚が。
プロフィール
いくえみ綾先生
10月2日生まれ。北海道出身。14歳の時に『別冊マーガレット』より「マギー」でデビュー。1999年「バラ色の明日」で第45回小学館漫画賞を受賞。2009年「潔く柔く」で第33回講談社漫画賞を受賞する。
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